なぜ、素材建築は「カタログ選び」から始まらないのか。

建築計画が始まると、多くのプロジェクトで最初に行われるのが「カタログを見ること」です。

断熱材、床材、建具、設備機器など建築を合理的に進めるための道標のように見えます。

しかし、素材建築においては、この「カタログ選び」から建築が始まることはほとんどありません。

それは、素材建築が非効率だからでも、時代遅れだからでもありません。

素材建築とカタログ建築では、建築のつくり方そのものが根本的に異なるからです。

1| 素材建築では、素材は「すでに存在している」

素材建築で扱う自然素材は、基本的にすでにこの世界に存在しています。

土、木、石、漆喰、それらは、工場で完成品としてつくられる前に、
自然の一部として存在してきた素材です。

素材建築の設計は、「どの製品を選ぶか」から始まりません。

まず問われるのは、この素材の、どの性質を引き出したいのかという判断です。

・土の荒さを残すのか、抑えるのか
・木の節や色ムラを見せるのか、整えるのか
・石の重さを強調するのか、背景に退かせるのか

その判断をもとに、試験施工を重ね、仕上げ方を調整しながら、
素材そのものを「つくっていく」工程が始まります。

素材建築において、素材は選ばれる対象ではなく、
建築とともに育てられる存在なのです。


2| カタログ建築は「選んだ瞬間に答えが出る」

一方、カタログ建築では、製品を選んだ時点で、
性能・価格・納期がほぼ確定します。

これは決して悪いことではありません。
予算管理がしやすく、品質も一定に保たれやすい性質があります。

しかし同時に、大きな前提がそこには含まれています。

それは、建築の側が、製品に合わせて調整されるということです。

本来、建築の一部であるはずの素材や部品に合わせて、
寸法を変え、納まりを変え、設計を修正していきます。

結果として、建築全体が部分ごとの既製品の集合体になっていきます。

カタログ建築とは、効率的である一方で、「つぎはぎ」を前提とした建築でもあります。


3| 素材建築は、建築本体に素材を合わせていく

素材建築では、その順序が逆になる。まず建築全体の構成があり、
その流れに合わせて、素材や部品を調整していく性質があります。

・厚みを変える
・仕上げ方を変える
・寸法をその場で詰める

こうした調整が可能なのは、自然素材が柔軟性を持った存在だからです。

結果として、素材建築では、空間全体に一貫したトーンが生まれます。

壁、床、天井、建具などそれぞれ部位が主張しすぎず、
しかし確かな存在感を持って空間を構成していきます。

これは、部分最適の積み重ねでは到達できない質であります。


4|設計図の役割が、根本的に異なる

カタログ建築では、設計図は調整のための最終成果物になります。

既製品をどう納めるか。
どこで寸法を合わせるか。
そのために、設計図は非常に緻密になります。

そして設計図が完成した後は、変更が難しくなります。

一方、素材建築では、設計図は方向性を示すための道具に近くなります。

自然素材の表情や、最終的な仕上がりは、図面だけでは完全に描ききれません。

そのため、設計図が完成した後も、設計者、クライアント、施工者(職人)が
現場で調整を続けながら、建築を仕上げていくことになります。

素材建築では、完成まで設計が終わらないと言ってもいいです。


5| つくる過程が違えば、出来栄えも違う

素材建築とカタログ建築は、どちらが正しい、という話ではありません。

しかし、つくる過程が違えば、自然と出来栄えは異なります。

・事前に決め切る建築
・現場で育てる建築

この違いは、完成後の空間の空気感に、はっきりと現れます。

素材建築では、わずかな揺らぎや不均一さが、空間に深みを与えてくれます。

カタログ建築では、均質さや整然さが、安心感を生みます。

どちらを選ぶかは、施主の価値観によるものです。


6| 素材建築は「自然素材100%」ではない

誤解されがちですが、素材建築は、すべてを自然素材で構成する建築でありません。

設備機器、金物、照明など、既製品を使う部分も必ず存在します。

重要なのは、その割合と扱い方です。

自然素材をメインに据えると、現場での調整が不可欠になります。

その結果、設計者が現場に出向く回数は増え、

クライアントや施工者と何度も判断を重ねることになります。

素材建築とは、「設計で完結する建築」ではなく、
関係性の中で完成していく建築なのです。


まとめ| 建築を「有機体」として捉えるということ

私たちは、建築を一つの有機体として完成させることを、
素材建築のゴールだと考えています。

部品の集合体ではなく、全体として呼吸し、
時間とともに変化し、使われながら成熟していく存在。

そのためには、素材を単なる製品として扱うことはできません。

素材そのものと向き合い、現場で対話し、調整を重ねる必要があります。

この姿勢こそが、カタログ建築の設計者との最も大きな違いかもしれません。

素材建築は、カタログ選びから始まりません。

建築そのものと向き合うことから始まる建築なのだからです。


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