企業施設の設計において、素材選びは「仕上げ」の問題ではありません。
それは、企業の姿勢・価値観・人への向き合い方が、最も正直に表れる部分です。
ところが実際には、企業施設で「やってはいけない素材選び」が
驚くほど多く見受けられます。
- 見た目は整っているが、居心地が悪い
- 最初はきれいだが、すぐに使われなくなる
- 企業の理念と、空間の印象が噛み合っていない
この記事では、企業施設の設計において避けるべき素材選びを整理しながら、
なぜそれが問題になるのか、そして何を基準に考えるべきかを解説します。
1|「カタログ映え」だけで選ぶ素材
最も多い失敗が、写真やサンプルで良く見える素材を、そのまま採用することです。
- カタログで高級感がある
- 展示会で印象がよかった
- 他社の事例で使われていた
これらは判断材料にはなりますが、決定理由にしてはいけません。
企業施設は、「眺める空間」ではなく日常的に使われる空間だからです。
- 光の当たり方で印象が変わる
- 面積が増えると圧迫感が出る
- 実際に触れると冷たい・硬い
写真で選んだ素材ほど、完成後に違和感が出やすい。これは、非常に典型的な失敗です。
2|「高級=良い」と思い込む素材選び
企業施設では、「せっかく作るなら、いい素材を」という判断がよくあります。
しかし、高価な素材=良い素材ではありません。
特に注意が必要なのは、
- 強い光沢のある石材
- 表情が均一すぎる人工素材
- 触ることを前提にしていない仕上げ
これらは、一見すると“格”があるように見えますが、企業施設では逆効果になることがあります。
- 緊張感が強くなりすぎる
- 社員が近づきにくい
- 長居したくならない
中小企業や、人を大切にする企業ほど、威圧感のある素材は慎重に扱う必要があります。

3|「汚れない」ことだけを優先した素材
管理のしやすさを重視するあまり、「汚れない」「傷がつかない」素材だけを選ぶ。
これは、企業施設でよくある落とし穴です。
確かに、
- メンテナンスは楽
- 初期状態は長く保てる
しかしその代わりに、空間から“人の気配”が消えます。
- 触ってはいけない雰囲気
- 使うほど味が出る、が起きない
- どこか仮設的な印象
結果として、社員も来訪者も、無意識に距離を取る空間になります。
企業施設は、「使われないほど美しい」場所ではなく、使われてこそ価値が増す場所です。
4|素材の「意味」を考えない選び方
素材には、それぞれ意味があります。
- 木:温度、人の手、成長
- 土・左官:土地性、手仕事、時間
- 石:重さ、永続性、記念性
- 金属:精度、工業性、シャープさ
問題なのは、
この意味を考えずに、デザインの好みだけで組み合わせてしまうことです。
たとえば、
- 人を迎える空間なのに、冷たい素材ばかり
- 共感を生みたい場なのに、無機質すぎる
- 長く使う施設なのに、経年変化を許さない
素材の意味と、企業の姿勢がずれていると、空間はどこか落ち着きません。
5|「今の流行」だけで選ぶ素材
トレンド素材は魅力的です。しかし企業施設では、
流行だけを理由に選ぶことは避けるべきです。
- 数年で古く見える
- 次の更新が前提になる
- 企業の時間軸と合わない
企業施設は、短くても10年、多くは20年、30年と使われます。
その時間軸に耐えられるか。これを考えずに選ばれた素材は、
いずれ「時代遅れ」という負債になります。
6|「触る前提」の素材で空間をつくる
企業施設で重要なのは、触覚の設計です。
ところが、
- 触ると指紋が目立つ
- 傷が怖くて触れない
- 冷たすぎる、硬すぎる
こうした素材で構成された空間は、無意識に人を遠ざけます。
人は、触れられない空間に、心を預けません。
自然素材(木・土・左官)は、
この点で非常に優れています。
- 触ることを前提にしている
- 手触りが記憶に残る
- 傷や変化が「歴史」になる
企業施設において、これは大きな価値です。

7|「素材数が多すぎる」設計
最後に見落とされがちなのが、
素材を使いすぎることです。
- あれも良さそう
- これも入れたい
- 見せ場を増やしたい
結果として、空間の印象が散ります。
企業施設では、少ない素材を、丁寧に使うほうが、
圧倒的に説得力があります。
素材が絞られている空間は、
- 記憶に残りやすい
- 企業の姿勢が明確
- 手入れが行き届く
多様性ではなく、
一貫性が価値になります。
まとめ|素材選びは、企業の覚悟を映す
企業施設の設計で、
“やってはいけない”素材選びとは、
- 見た目だけで選ぶ
- 高級感だけを追う
- 管理しやすさだけを優先する
- 意味や時間軸を考えない
- 触れない素材で構成する
こうした選択です。
素材は、企業が「人とどう向き合うか」を無言で語ります。
派手である必要はありません。多くも要りません。
正直で、使われ、時間に耐える素材を選ぶこと。
それが、企業施設を“生きた空間”にするための、最も重要な設計判断です。







