別荘のご相談で、非常によく聞かれる言葉があります。
それは「落ち着ける場所にしたい」という要望です。
多くの方が、日常から少し距離を取り、
心と身体を整える場所として別荘を考えています。
そのため、派手さや非日常性よりも、
「長く過ごせること」「疲れないこと」を重視されます。
しかし、広さを確保したり、間取りを工夫したりするだけで、
落ち着きが生まれるわけではありません。
落ち着きは、空間の情報量と、素材の存在感のバランス
から生まれるものです。
1|落ち着きとは「判断しなくていい状態」
人は空間に入った瞬間から、無意識のうちに多くの判断をしています。
・色は強すぎないか
・形は意味を持ちすぎていないか
・素材は主張しすぎていないか
・視線はどこに向かえばいいのか
落ち着かない空間では、こうした判断が絶えず求められます。
別荘における落ち着きとは、
「判断しなくても済む状態」をつくることだと考えています。
何を見ればいいのか
どこに座ればいいのか
どう振る舞えばいいのか
それらを空間が自然に導いてくれる。そのとき、人は初めて緊張から解放されます。

2|別荘に「説明」はいらない
落ち着かない別荘には、共通点があります。
それは、空間が何かを説明しようとしすぎている
ということです。
デザインの意図は、素材の価値や特別な演出が
前に出すぎると、空間は情報過多になります。
別荘は、本来、理解する場所ではなく、身を委ねる場所です。
説明のいらない空間こそが、結果として深い落ち着きを生みます。
3|素材が主張しすぎないという設計
自然素材は、別荘と非常に相性が良い素材です。
しかし、使い方を間違えると、落ち着きを損なう原因にもなります。
自然素材の魅力は、均一でないこと、
毎回同じ表情をしないことにあります。
壁や床が常に微妙に違う表情を見せることで、
人の意識は一点に集中せず、緩やかに拡散します。
これは、強いデザインや象徴的な演出では
決して得られない感覚です。
重要なのは、素材を「見せる」ことではなく、
空間の背景として機能させることです。
4|余白が滞在時間を変える
落ち着いた別荘では、人の行動が変わります。
・予定していた時間より長く滞在する
・何もせず、外を眺める時間が増える
・目的のない行為が自然に生まれる
これらは、空間に余白があることで起こります。
余白があると、「何かをしなければならない」という意識が薄れます。
その結果、
ソファに座る
本を読む
音を聞く
といった行為が、無理なく日常に溶け込みます。
5|落ち着きは「設計初期」で決まっている
落ち着きは、仕上げや家具選びで後から足せるものではありません。
動線の整理
視線の抜け
空間同士の距離感
これらはすべて、設計の初期段階で決まります。
別荘の設計では、「何を足すか」よりも
「どこまで削れるか」が問われます。
この引き算の判断には、設計者の価値観が色濃く表れます。
6|別荘は「回復する場所」である
別荘は、刺激を受ける場所ではなく、回復するための場所です。
情報量を抑え、素材の存在感を整え、余白を残す
その積み重ねが、心身の緊張をゆっくりとほどいていきます。
落ち着きとは、特別な演出によって生まれるものではなく、
設計者がどれだけ抑制できたかの結果です。

7|まとめ|落ち着きは設計者の姿勢から生まれる
別荘の質は、「何を入れたか」ではなく、
「どこまで削れたか」で決まります。
落ち着きは、設計者の引き算の姿勢から生まれます。
空間が語りすぎないことで、
人は自分自身の感覚を取り戻します。
それが、長く使われ続ける別荘の条件だと考えています。




