自然素材を使った建築では、「どんな素材を選んだか」よりも、
その素材が、どのような関係性の中で使われたかが、
空間の質を大きく左右する。
設計図がどれほど整っていても、仕様書がどれほど丁寧でも、
施工者との会話が成立していなければ、自然素材の建築はうまくいかない。
自然素材の設計とは、設計者一人で完結する仕事ではない。
施工者との対話を通じて、初めて形になる設計行為である。
1| 設計者と施工者は、上下関係ではない
建築の世界には、設計者が「上」、施工者が「下」という
暗黙の構図が残っている現場も、いまだに存在する。
しかし、自然素材の建築において、その関係性はまったく機能しない。
設計者には、デザインの責任がある。
空間の方向性を定め、建築としての完成度に責任を持つ立場である。
一方で施工者は、素材を扱い、現場条件を読み、
実際に建築を成立させる責任を担っている。
この二つは、上下ではなく、役割の違いにすぎない。
設計者が一方的に指示を出し、施工者がそれを実行するだけの関係では、
自然素材は本来の力を発揮しない。
素材の癖や、その日の湿度、下地の状態を肌感覚で知っているのは、
常に現場に立つ施工者である。
自然素材の設計とは、
設計者と施工者が、それぞれの専門性を持ち寄りながら進める共同作業なのだ。
2| 施工時の変更には、必ずコストが伴う
現場が始まれば、設計段階では見えなかった課題や、
より良くするためのアイデアが生まれることがある。
そのとき、設計者が忘れてはならないのが、
施工時の変更には、必ずコストが発生するという事実だ。
自然素材の建築では、変更の一つひとつが、
材料費だけでなく、手間や工程に影響を与える。
にもかかわらず、上下関係を前提にした現場では、
設計者が「この方が良いから」と、変更を押し込んでしまうケースがある。
かつてはそれが通用した時代もあったかもしれない。
しかし、現在の建築現場では、そのやり方はもはや成立しない。
施工者にとって、説明のない変更はリスクであり、
現場全体の信頼関係を損なう原因にもなる。
自然素材の設計では、変更が必要なときほど、
なぜ変えるのか、何を良くしたいのかを丁寧に共有することが欠かせない。
会話を重ねることで、コストと完成度のバランスを探る。
それが、成熟した設計者の姿勢である。
3|「早く作ること」が、正解とは限らない
工程管理は、基本的には施工者の領域である。
どの順番で作業を進め、どこに人を配置するかは、
施工者の判断に委ねられる。
しかし、自然素材の建築では、「早く作ること」が、
必ずしも正しいとは限らない。
たとえばコンクリート。
たとえば左官仕上げ。
これらの工程では、
十分な乾燥期間を確保することが、仕上がりを左右する。
乾燥が不十分なまま次の工程に進めば、ひび割れや剥離といった不具合が、
後から必ず表面化する。特に左官工事は、元請の工程判断に流されやすい。
全体工程を優先するあまり、本来必要な養生期間が削られてしまうことも少なくない。
自然素材の設計に関わる設計者は、「急げば何が失われるのか」を理解している必要がある。
そして施工者とともに、時間をかけるべき工程には、きちんと時間を与える判断を共有しなければならない。

4| 書面と現場会話、その両方が必要である
設計変更や指示は、原則として書面で伝えるべきである。
図面や指示書に残すことで、情報の齟齬を防ぐことができる。
しかし、現場が進み、仕上げ段階に入ると、
すべてを書面でやり取りすることが、かえってスピードを落とす場面も出てくる。
自然素材の仕上げでは、その場で判断しなければならない瞬間がある。
・この下地の状態で仕上げが可能なのか
・照明の位置や機種が変更にあり仕上げとしていいのか
・展示計画の変更によって仕上げが変えるべきか
こうした判断は、現場で施工者と顔を合わせ、
実物を見ながら会話することでしか成立しない。
書面での伝達と、現場での対話。
どちらか一方では不十分であり、
両方を使い分けることが、素材建築では不可欠である。

まとめ| 自然素材の設計とは、会話を積み重ねる設計である
自然素材は、設計者の意図だけでは動かない。
施工者の技術だけでも成立しない。
両者が、同じ空間を見つめ、同じ方向を向いて会話を重ねることで、
初めて建築として結実する。
設計者は、デザインの責任を負う立場であると同時に、
会話の質に責任を持つ存在でもある。
施工者を尊重し、コストと工程を理解し、
必要なときには現場で向き合う。
自然素材の設計は、図面の完成度ではなく、
現場で交わされた会話の積み重ねによって決まる。
そしてその会話こそが、素材を生かし、
建築を「ただの建物」から「記憶に残る空間」へと押し上げていくのだ。
素材建築は、条件や価値観によって成立の仕方が大きく変わります。
まずは、敷地や計画について一緒に整理するところから始めています。
無理な営業や即決を前提としたご提案は行っていません。
考え方を共有できそうだと感じられた方は、
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