この足軽組屋敷の外壁を前にすると、いろいろなことを考えます。
それは造形の美しさではなく、「選択の痕跡」が見えるからです。
竹を網代に組んだ外壁。
その背後には土壁があります。
この竹は装飾ではありません。
土壁を風雨から守るための保護材です。
しっかりとした軒が出ているにもかかわらず、土壁は劣化から逃れられません。雨は吹き込み、湿気は回り込み、乾湿の繰り返しが壁を痛めていきます。そのため竹を先に受けさせ、土壁をできるだけ長持ちさせる工夫が施されています。
しかし竹は耐久性が高い素材ではありません。
年月とともに黒ずみ、やがて繊維は弱り、朽ちて崩れていきます。
つまりこれは、「永続する外壁」ではなく、「交換される外壁」です。
ここに、コストと耐久性の対立軸が見えてきます。
1| 外壁は屋根の次に重要な場所
建築において、最も耐久性が求められるのは屋根です。
そして次に重要なのが外壁です。
外壁は常に風雨にさらされ、紫外線を受け、寒暖差に耐え続けます。
その素材選定は、建築の寿命を大きく左右します。
どの素材を選ぶか。
それは毎回悩むテーマです。
悩む理由は明快です。
コストと耐久性がほぼ比例しているからです。
石は耐久性が高い素材です。
しかし加工費、運搬費、施工費は高額になります。
しっくい仕上げも同様です。
耐候性に優れ、土壁を長期にわたって保護できます。しかし高度な技術と材料費が必要です。
足軽という身分を考えれば、そうした素材は簡単に採用できなかったでしょう。
江戸時代においても、建築は経済と無縁ではありませんでした。
この中居邸の竹の外壁は、その時代の「合理的な解」であったと感じます。

2| 永続性ではなく、時間を分割する発想
竹は朽ちます。
しかし交換が容易です。
高価な素材で永遠を目指すのではなく、
安価な素材を定期的に更新する。
これは時間を分割する発想です。
土壁を守るために、まず竹が風雨を受け止める。
竹が傷めば、そこだけを取り替える。
全体を守るために、部分を犠牲にする構造です。
これは決して貧しい選択ではありません。
むしろ、限られた資源の中で最大限の耐久性を確保するための知恵です。
3| 素材建築の現代的な課題
素材建築の考え方は、良い素材を使えば立派で長持ちする家ができる、という単純な話ではありません。
確かに、予算が潤沢であれば、石や高耐久木材、金属パネルなどを用い、長期的にメンテナンスの少ない建築をつくることは可能です。
しかし、それが可能なのは一部の建築に限られます。
私たちが直面する現実は、
「限られたコストの中で、いかに耐久性を確保するか」という問いです。
そのためには、
- 素材の特性を理解すること
- 立地条件を読むこと
- 風向きや日射を分析すること
- クライアントの予算と価値観を把握すること
これらを総合的に調整する必要があります。
素材建築とは、単に自然素材を使うことではなく、
素材の寿命と向き合う設計姿勢なのです。
4| 劣化を読むという視点
この写真をよく見ると、窓の下屋上部が黒く変色しています。
水が回りやすい場所であり、乾きにくい部分です。
劣化は均等には進みません。
弱い箇所から始まります。
であれば、その部分だけを耐久性の高い素材に変えるという方法もあります。
例えば、
- 下屋の上部に銅板を被せる
- 水切りを強化する
- 接合部に耐候性の高い木材を使う
全面を高価な素材に変えるのではなく、
劣化の起点を見極めて部分的に強化する。
これは現代の素材建築においても極めて重要な考え方です。
5| 繊維性素材の難しさ
自然素材の中でも、材木や竹のような繊維性素材を外部に使用する場合は、細心の注意が必要です。
繊維は水を吸い、乾き、膨張し、収縮します。
その繰り返しが劣化を早めます。
しかし同時に、繊維性素材は軽量で加工しやすく、地域で調達可能な素材でもあります。
つまり、
- 安価である
- 施工性が高い
- 地域性を持つ
という利点を持っています。
それらを活かしながら、どのように耐久性を補うか。
そこに設計の工夫が求められます。
- 軒を深く出す。
- 風通しを確保する。
- 地面から離す。
- 交換を前提とした納まりにする。
こうした積み重ねが、建築の寿命を延ばします。
6| コストと耐久性は本当に対立するのか
一見すると、コストと耐久性は対立軸にあります。
高価な素材は長持ちし、安価な素材は朽ちやすい。
しかし中居邸の外壁を見ると、その関係は単純ではないと気づきます。
竹は朽ちます。
しかし土壁を守ることで、建物全体の寿命を延ばしています。
短命な素材が、長命な構造を支えているのです。
ここに、素材の役割分担という考え方があります。
すべてを永続させるのではなく、
どこを守り、どこを更新するかを設計する。
それが素材建築の核心です。

まとめ| 現代にどう活かすか
現代の建築でも、私たちは同じ問いに向き合っています。
この素材は、どのくらい風雨に耐えられるのか。
大きな地震に耐えられる構造になっているのか。
メンテナンス周期はどの程度か。
コストを抑えながら、耐久性を確保する。
それは単なる経済計算ではありません。
素材の性質を理解し、
時間の流れを読み、
劣化のプロセスを予測することです。
足軽組屋敷中居邸の外壁は、
決して豪華ではありません。
しかしそこには、
時代の制約の中で最適解を探った設計の知恵があります。
素材建築とは、良い素材を並べることではなく、
素材の寿命とコストのあいだで最適なバランスを見つける行為です。
この外壁は、その原点を静かに語っています。
私たちもまた、
限られた条件の中で、どこに力を入れ、どこを更新可能にするのかを見極めながら、時間に耐える建築をつくっていきたいと考えています。
コストと耐久性の対立軸。
その緊張関係の中にこそ、設計の本質があるのではないでしょうか。
素材建築は、
図面やカタログを見る前に、考えるべきことがいくつもあります。
・この考え方に共感できるか
・自分の計画に当てはまるか
・そもそも素材建築が向いているか
その整理から、一緒に行っています。
具体的な計画がなくても構いません。
「素材建築という考え方が、自分たちに合うかどうか」
その確認からでも、お話しできます。

