なぜ多くの企業ミュージアムは来場者が伸びないのか
企業ミュージアムをつくったものの、思うように来場者数が伸びない。
これは多くの企業が抱えている共通の課題です。建築も展示も決して悪くない。立地も悪くない。それでも人が増えない。
その原因は、実はとてもシンプルです。
**「展示を設計していても、体験を設計していない」**からです。
本稿では、なぜ企業ミュージアムが伸び悩むのか、そして来場者数を伸ばすために何を設計すべきなのかを整理します。
1| 日本は“ミュージアム飽和時代”に入っている
現在、日本には数多くのミュージアムが存在します。
- 地方自治体の文化施設
- 企業PR館・ブランドミュージアム
- 体験型観光施設
- 道の駅併設の展示館
施設数は確実に増えています。しかし来場者は比例して増えていません。
むしろ、来場者は分散しているのが現実です。
いま企業ミュージアムは、他の文化施設だけでなく、商業施設やテーマパーク、さらにはスマートフォンの中のコンテンツとも競争しています。人の「可処分時間」の奪い合いです。
その中で、「展示を並べるだけ」の施設は選ばれにくいのです。

2| 展示を見るだけの限界
多くの企業ミュージアムは、次のような構成になっています。
- パネル展示
- ガラスケース
- 製品の年代順陳列
- 社史年表
理解はできます。企業の歴史も技術力もよくわかります。
しかし問題は、記憶に残るかどうかです。
さらに近年は、SNSを意識した「写真スポット」も設けられています。ロゴ前で記念撮影をして終わる。外観を撮って帰る。
それは体験ではなく、消費です。
消費は一瞬で終わります。
体験は、記憶として残ります。
3| なぜ“体験”が必要なのか
ここでひとつ、身近な例を考えてみます。
海水浴に行って、海を「見るだけ」で帰る人はいません。
海に入るから、泳ぐから、砂に触れるから、思い出になるのです。
企業ミュージアムも同じです。
パターンA
見る → 考える → 写真を撮る → 終了
パターンB
見る → 考える → 手を動かす →
参加者と話す → 写真を撮る → 記憶に残る
この違いは決定的です。
「手を動かす」「人と関わる」という要素が入った瞬間、空間は展示から体験へと変わります。

4| 出来事をつくることが鍵
展示は「静的」です。
体験は「動的」です。
来場者数を伸ばしている施設は、展示物そのものよりも、「出来事」を設計しています。
例えば、
- 短時間ワークショップ
- 定期開催の体験イベント
- 実演コーナー
- 学芸員によるライブ解説
- 音声ガイダンス
- プロジェクションマッピングなどの没入型演出
これらはすべて、「展示を見る」から「展示に関わる」へ転換する装置です。
来場者が主役になる瞬間を設計しているかどうか。
そこが分かれ目です。
5| 動線設計が甘い施設は伸びない
もうひとつ見落とされがちな要素が「動線設計」です。
来場者の滞在時間は一定ではありません。
- 30分しかない人
- 2時間じっくり見る人
- 同行者で見ない人
順路固定型の施設では、短時間来場者を取りこぼします。
必要なのは、柔軟な構造です。
1|どこからでも理解できる展示構成
- 回遊型レイアウト
- 章ごとの独立性
- 中央に核となる展示
2|待機・休憩空間の設置
- 見ない人の居場所
- カフェやライブラリー
- 屋外の余白空間
3|混雑想定設計
- 真夏の滞留対策
- 団体来場時の分散導線
- 大型バス来訪時の流れ
空間は、平日の静かな状態だけで設計してはいけません。
ピーク時を想定することが重要です。
6| 地域との接続がない施設は孤立する
企業ミュージアムが伸びない理由のひとつに、外との接続不足があります。
- 周辺学校との連携(校外学習・教材化)
- 外国人観光客への多言語対応
- 旅行会社との企画連携
施設は「待つ」ものではありません。
自ら「動く」必要があります。
地域に根ざした施設は、自然とリピーターが生まれます。

7|来場者数が伸びる施設の共通点
体験型プログラムを継続的に行い、来場者数を伸ばしている施設として、
「INAXライブミュージアム」が挙げられます。
この施設は、展示を見るだけではありません。
- 土に触れる
- タイルに触れる
- 実際に作る
という「体験の連鎖」が設計されています。
来場者は見学者ではなく、参加者になります。
その違いが、来場者数の差を生みます。
まとめ| 企業ミュージアムは“体験設計”で決まる
来場者が伸びない理由は、
- 展示が悪いからではない
- 予算が足りないからではない
- 建物が古いからでもない
出来事を設計していないからです。
企業ミュージアムは単なる広報施設ではありません。
文化投資であり、未来の顧客をつくる装置です。
見る空間から、関わる空間へ。
説明する施設から、体験させる施設へ。
そこに、来場者数を伸ばす本質があります。
