建築を考え始めたとき、多くの人がまず探すのは「設計が上手そうな事務所」です。
- 作品写真がきれい
- 雑誌に載っている
- デザインが洗練されている
もちろん、設計力は重要です。
しかし実際に家づくりや別荘づくりが進んだあと、こんな言葉を耳にすることがあります。
- 「完成度は高いけれど、どこか落ち着かない」
- 「こちらの感覚が、うまく伝わらなかった」
- 「正解だけど、自分の建築ではない気がする」
なぜ、こうしたズレが起きるのでしょうか。
この記事では、
「設計が上手い事務所」と「話が合う事務所」の違いを整理しながら、
後悔しない設計事務所選びの視点をお伝えします。
1|設計が「上手い」とは、どういうことか
まず、「設計が上手い事務所」とは何でしょうか。
一般的に、次のような要素を指すことが多いはずです。
- 図面が整理されている
- 納まりがきれい
- 空間構成が論理的
- デザインの完成度が高い
これらは、建築として非常に重要です。
そして、多くの場合“正解”でもあります。
しかし、ここで注意したいのは、
この「上手さ」は万人にとっての上手さであることが多い、という点です。
2|話が合わないと、設計はどんどんズレていく
一方で、「話が合う事務所」とは、
設計技術以前に、こんな感覚を共有できる相手です。
- どんな時間を過ごしたいか
- 何を大事にしているか
- 何に違和感を覚えるか
- 何は要らないと思っているか
これらは、図面や要望書ではほとんど伝えきれません。
たとえば、
- 「落ち着きたい」と言ったとき
→ 静かなデザインを想像する人
→ 余白のある空間を想像する人
同じ言葉でも、受け取り方は大きく違います。
話が合わないまま進むと、設計は次第に
「説明される建築」になっていきます。

3|「正しい建築」と「自分に合う建築」は別物
設計が上手い事務所がつくる建築は、多くの場合「正しい」。
- 動線は合理的
- プランに無駄がない
- デザインに破綻がない
しかし別荘や住まいでは、正しさ=満足度ではありません。
- 合理的すぎて、息が詰まる
- きれいすぎて、触れない
- 完成度が高すぎて、入り込めない
こうした違和感は、設計ミスではなく、感覚の不一致から生まれます。
4|話が合う事務所は「結論を急がない」
話が合う設計事務所には、共通した特徴があります。
それは、すぐに答えを出そうとしないことです。
- 「それは、なぜそう思われたのですか?」
- 「そのとき、どんな感じでしたか?」
- 「それは要望というより、感覚かもしれませんね」
こうしたやりとりを重ねながら、言葉にならない部分を
一緒に探っていきます。結果として、図面に現れるのは
「要望の集積」ではなく、その人の時間の器になります。
5|設計が上手い事務所は「建築を完成させる」
設計が上手い事務所は、完成度の高い建築をつくります。
一方で、話が合う事務所は、使われながら完成していく建築をつくります。
- 少し未完成でもいい
- 余白を残す
- 住み手が入り込める
別荘や住まいでは、後者のほうが
長期的な満足度が高くなるケースが非常に多い。
なぜなら、人の感覚は時間とともに変わるからです。
6|「話が合う」は、好みが同じという意味ではない
ここで誤解してはいけないのは、「話が合う=好みが同じ」ではない、ということです。
重要なのは、
- 違和感を共有できる
- 無理に説得しない
- 価値判断の軸が近い
という点です。
- 派手にしたくない
- 使われない部屋はいらない
- 落ち着かない空間は避けたい
こうした“消極的な希望”をきちんと理解してくれるかどうか。
これは、作品集を見ただけでは判断できません。
7|設計事務所選びで確認すべき問い
設計事務所を選ぶとき、次の問いを自分に投げかけてみてください。
- この人と、長い時間話せそうか
- こちらの話を「要約」ではなく「咀嚼」してくれるか
- 言葉にならない部分を、急いで形にしようとしていないか
- 違和感を感じたとき、素直に言えそうか
これらに「はい」と思えるなら、その事務所は話が合う可能性が高いです。

まとめ|建築は「技術」より「対話」で決まる
「設計が上手い事務所」と「話が合う事務所」は、
重なることもありますが、必ずしも同じではありません。
とくに別荘や住まいでは、
- 正解をつくることよりも
- 自分に合った空間をつくること
のほうが、はるかに重要です。建築は、一度建てたら簡単にはやり直せません。
だからこそ、技術以上に“対話の相性”が、完成後の満足度を左右します。
設計が上手いかどうかは、時間が経てば誰にでもわかります。
しかし、話が合うかどうかは、最初の数回の対話でしか感じ取れません。
その感覚を、どうか軽視しないでください。







