企業施設の設計は、外観のデザインや設備の充実だけでは完成しません。
もっと重要なのは、
“空間そのものが企業理念を語っているかどうか”
です。
この“語り”を担うのが、素材です。
素材選びは単なる仕上げの問題ではなく、
企業の存在理由を可視化し、体験として伝えるための
戦略レベルの意思決定です。
この記事では、企業施設における素材の役割、
なぜ自然素材がブランド形成に強いのか、
そして素材を“企業の声”として使うための方法を
設計者の視点から深く解説します。
■ 1|なぜ企業ブランディングに「素材」が重要なのか
企業のブランディングを語る際、
ロゴ、色彩、コピー、サービスの質などが注目されがちですが、
実は“空間の素材”はそれらよりも強いメッセージを発します。
① 素材は、「企業が何を大切にしているか」を無言で伝える
例えば、入口の壁が
・無機質なパネル
・温かみのある木
・重厚な石
・柔らかな土
のどれであるかによって、企業の印象はまったく異なってきます。
素材は言語より早く、
感覚のレベルで企業の価値観を伝えます。
② 顧客、社員が“毎日触れるブランド”
企業理念やミッションは、掲示されていても
日常の中で意識されることは少ないものです。
しかし、素材は常に肌が触れ、視界に入ってきます。
- 床の質感や照明の明るさ
- 壁の反射
- 香り
- 温度
これらはすべて、ブランドの体験になります。
③ 企業施設は“企業の人格”をもっともよく表すメディア
企業の人格を伝える方法として、建築は圧倒的です。
動画でも文章でもなく、
空間そのものが企業の哲学を具現化するからです。
そして、建築の人格を決めるのは、モノとしての“素材”です。
■ 2|自然素材が企業ブランディングに強い4つの理由
企業施設の素材を検討する際、
木、漆喰、土、石、和紙などの自然素材は
ブランディングの観点から極めて強力です。
① “経年変化”がブランド価値と重なる
企業にとって重要なのは短期的な派手さではなく、
時間とともに深化するブランドです。
自然素材には以下の特徴があります。
- 時間とともに風合いが増す
- 傷も“味”になる
- 手入れをしながら長く使える
- 環境変化によって表情が変わる
成熟していく企業らしさを象徴する素材です。
② 手触り・温度・質感が“人間性”を伝える
企業施設は社員の第二の家ともいえる存在です。
土壁や漆喰壁がもつ柔らかな拡散光、
木の香り、石の低い温度感は、
人間の身体感覚レベルで安心感を与えます。
自然素材=“人への関心”
というメッセージを強く伝えます。
③ 自然素材は“誠実さ”と“信頼感”を空間に宿す
自然素材には人工的な装飾が少なく、
素直な存在感があります。
- 誠実
- 正直
- 温かい
- 本質的
- まじめ
- 地に足がついた印象
こうしたイメージを空間にもたらすため、
企業の信頼性を高める効果があります。
④ コミュニケーションの質を高める
自然素材の空間は音の反響が柔らかく、
会話がしやすく、疲れにくい。
研修施設、保養所、ギャラリー、顧客を迎える空間では、
コミュニケーションの質が“成果”に直結します。

■ 3|素材別に見る「企業の人格」との相性
素材ごとに、伝わるメッセージは異なります。
- 木
- 温かさ
- 親しみやすさ
- 安心感
- 教育・福祉・食品関連の企業と相性がよい
- 石
- 重厚
- 堅固
- 歴史
- 長期的な信頼性を示したい企業向け
- 土
- 柔らかく深い静けさ
- 包容力
- “考える場・整える場”に最適
- 保養所・ギャラリー・研修施設と相性がよい
- 漆喰
- 清潔
- 誠実
- 光のニュアンスを整える
- 精神性の高い空間に向いている
- 和紙
- 柔らかい拡散光
- 精巧さ
- 伝統を現代化したい企業に適している
- 金属(鉄・真鍮など)
- 精度
- 先端性
- 緊張感
- 技術系やデザイン系企業が選ぶ
企業が大切にする価値が何であるかによって
素材は一つの言語になります。
■ 4|企業施設で素材を“戦略的に使う”ための設計プロセス
素材を単なる仕上げではなく戦略として使う場合、
次のプロセスが必要です。
① 企業らしさの抽出
まずは企業価値を言語化します。
- コアバリュー
- 行動指針
- 歴史
- 地域社会との関わり
- 事業の特性
- 経営者の思想
この段階で素材の方向性が8割決まります。
② 空間目的の整理
同じ素材でも、
・保養所
・研修所
・ギャラリー
・顧客を迎えるラウンジ
では使い方が変わります。
③ 素材の“強み”と“弱み”を正確に理解する
自然素材は素晴らしいが、
メンテナンス・コスト・耐久性など
性質を理解した上で使う必要があります。
- 経年変化を計画に取り込む
10年後、20年後にどう美しくなるか。
素材に“時間のデザイン”を組み込むことが重要です。
■ 5|素材で語るべき“企業のストーリー”
企業施設は、企業の物語そのものです。
・「どんな価値を大切にしてきたか」
・ 「これからどこへ向かうのか」
・「社員にどんな体験を与えたいのか」
・ 「顧客にどう見られたいのか」
これらは言葉より空間のほうが強く届きます。
土の静けさ
漆喰の清潔
木のぬくもり
石の重厚
金属の精度
素材は、企業の人格の一部になります。
■ 6|素材は企業ブランドを“体験化”する
結論として、素材は
- 企業の価値
- 企業の文化
- 哲学
- 姿勢
- 歴史
- 人へのまなざし
を、空間という形で体験させるメディアです。
企業理念は、言葉だけでは伝わりません。
空間に触れ、光に照らされ、手触りを感じ、
時間とともに深化することで“体験”として体に残ります。
自然素材は、企業の“見えない部分の強さ”を視覚化する方法です。

■ 7|自然素材で建てる企業施設は、長期的なブランド投資
外観デザインより、素材の選択こそ最重要です。
素材は、企業の未来を語り続けます。
- 社員が働きやすくなる
- 離職が減る
- 採用が強くなる
- 顧客への印象がよくなる
- 企業の価値が深まる
これらはすべて、
素材が語る空間の力によって生まれる成果です。




