サヴォア邸はなぜ白になったのか?

近代建築を象徴する建築として、必ず名前が挙がるのが、ル・コルビジェによる「サヴォア邸」です。
白く、軽やかで、宙に浮いたようなその姿は、「近代建築=白」というイメージを決定づけた存在とも言えるでしょう。

しかし、この白は本当に、最初から彼が選び取った色だったのでしょうか。
本記事では、色彩という視点からサヴォア邸を読み解き、なぜこの建築が「白い名建築」として記憶されるようになったのかを考察していきます。

1| 黒いサヴォア邸が不思議に見える理由

もしサヴォア邸が黒かったとしたら、私たちはこの建築を美しいと感じるでしょうか。
想像してみると、その違和感は意外なほど大きいものです。

まず、黒い建築は周囲の環境に溶け込み、輪郭が不鮮明になります。サヴォア邸の最大の特徴である「純粋な幾何学形態」は、背景から切り離されることで成立していますが、黒はその境界を曖昧にしてしまいます。

また、表面に落ちる陰影が見えにくくなり、奥行きや立体感が失われます。ピロティによるリズムや、スラブの水平性といった繊細な構成が、黒一色の中では沈み込んでしまうのです。

さらに、白い柱の細いラインが消え、黒い四角いボリュームだけが強調されることで、サヴォア邸特有の「軽さ」は失われます。結果として、抽象的で洗練された建築ではなく、ただの重たい塊として認識されてしまうでしょう。

ここから見えてくるのは、色が建築の構造理解や空間体験に、決定的な影響を与えているという事実です。


2| ル・コルビジェは本当に「白」を選んだのか?

サヴォア邸=白、というイメージはあまりに強固ですが、実は完成当初の外壁は、私たちが知る純白ではなかったといわれています。

ル・コルビジェは、西洋古典建築に見られる大理石による装飾過多を強く否定し、住宅を「住むための機械」と定義しました。伝統的価値観からの決別を、彼は建築の思想として明確に打ち出していたのです。

しかしその一方で、色彩に関しては極端な単色主義者ではありませんでした。
サヴォア邸では、1階部分を周囲の自然と同化させるために緑色とし、2階部分には白に近い薄緑色が用いられていたと考えられています。これは、上階を浮遊して見せるための、極めて計算された色彩操作だったのでしょう。

つまり、彼が最初に目指したのは「白い建築」ではなく、「環境と関係を結びながら浮かび上がる建築」だったのではないでしょうか。


3| 白を決定づけたインターナショナルスタイルの思想

では、なぜ現在のサヴォア邸は完全な白として記憶されているのでしょうか。
その背景には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が提唱したインターナショナルスタイルの影響があると考えられます。

インターナショナルスタイルは、「ボリュームとしての建築」「規則性」「装飾の排除」という原則を掲げ、建築を普遍的な造形として整理していきました。その過程で、多色的で文脈依存的な建築は整理され、白い抽象的造形へと書き換えられていったのです。

白は素材感を消し、地域性や時代性を中和します。結果として、建築はどこにも属さない、理念的で幻想的な存在として立ち現れます。
サヴォア邸が「近代建築のアイコン」となった背景には、こうした編集の力が大きく作用していたのでしょう。


4| 白がつくる「透明な空間」と素材の役割

白い外壁によって生まれるのは、単なる無機質さではありません。
白はあらゆる要素を受け止める背景となり、わずかな「素材」の存在を際立たせます。

この考え方は、前回のブログで取り上げた「バルセローナ・パビリオン」とも共通しています。透明で非物質的な空間の中に、石や水といった限られた素材を置くことで、空間全体の豊かさが立ち上がるという思想です。

サヴォア邸において、その「素材」は屋上庭園の緑だったのかもしれません。
真っ白な建築の上に置かれた植物は、色と生命を伴う唯一の存在として、強い意味を持ちます。


まとめ| 白に塗り替えられた名建築という逆説

サヴォア邸は、後世の価値観によってホワイトキューブ化されることで、名建築として確固たる地位を得ました。
それは、必ずしもル・コルビジェ自身の当初の意図と完全に一致しているとは言えないかもしれません。

しかしそこには、「自然と調和する建築」を求める見えない力が働いていたようにも感じられます。
白く抽象化された建築があるからこそ、空、緑、光といった自然の要素が際立ち、建築は環境との新しい関係性を獲得したのです。

サヴォア邸が白くなった理由は、単なる色彩の選択ではありません。
それは、建築がどのように理解され、どのように記憶されるかという、文化的なプロセスそのものだったのではないでしょうか。


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色をめぐるこの問いは、現代の建築においてもなお、有効な示唆を与えてくれています。

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