企業施設を「居場所化」する / 素材がつくる心理的安全性のデザイン

企業施設の価値は、店舗でもオフィスでも研修施設でも、共通して “滞在したくなる空気” にあります。
ところが、その空気は家具やインテリアだけではつくれません。

基本は 素材 にあります。

素材には視覚情報を超えた「触覚」「温度」「湿度」といった身体感覚が宿り、
それらが複合的に作用することで、人はその空間を「安心できるかどうか」で判断します。

つまり企業施設において最も求められるのは、
心理的安全性をつくる建築” です。

本記事では、自然素材──特に「土」と「漆喰」を中心に、
企業施設に安全性・信頼性・ブランド性をもたらす空間づくりの考え方をお伝えします。


1|心理的安全性は“素材”から始まる

「心理的安全性」と聞くと、コミュニケーションや組織運営の話を思い浮かべるかもしれません。
しかし建築の観点では、もっとも物理的で、もっとも本質的です。

人が空間で安心を感じる条件は、
次の 3つの感覚の一致 にあります。

  1. 光の柔らかさ
  2. 音の吸収・反響のバランス
  3. 温度・湿度の安定

そしてこの3要素を決定しているのが、まさに「素材」です。

① 自然素材は“光を拡散”させる

土や漆喰の微細な凹凸は、光をまっすぐ跳ね返さず、
柔らかく拡散させます。この“光の柔らかさ”は、
視覚疲労を抑え、人の表情を優しく見せ、空間に「緊張しない空気」を生みます。

② 土は“音を吸いすぎず吸収する”

土壁は音を適度に吸い、
残響の少ない、落ち着いた空気をつくります。

騒音をカットするのではなく、
“人の声がよく届き、空気がざわつかない”レベルに調整されるのが特徴です。

③ 土と漆喰は“湿度”を微調整する

加湿器や空調では表現できない、
自然な湿度の安定性を生みます。

この3つが揃うと、人はその空間で、

「理由は分からないけれど、なんだか落ち着く」

という感覚を持ちます。

これこそが心理的安全性の本質であり、
企業施設が“居場所化”するための鍵です。


2|店舗・オフィスで求められる「居場所化」の効果

企業活動の現場では、なぜ“居場所のような企業施設”が求められているのでしょうか。
理由はシンプルで、

・滞在時間が価値を生む

・店舗 → 商品理解・購買単価が高まる
・オフィス → コミュニケーションの質が上がる
・ 研修施設 → 学習効果が向上する
・ギャラリー → 作品・ブランド力が上がる

つまり、企業施設は「滞在時間=価値」の構造にあります。

だからこそ、空間が“滞在したくなる空気”を持っているかが
経営的に非常に重要なのです。

そして、滞在価値を高くする素材的基盤が、
土と漆喰なのです。


3|“居場所化”をつくる空間デザインの要素

では、自然素材を用いて企業施設を居場所化するには
どのような設計思考が必要なのでしょうか。

代表的な要素を挙げます。


① 壁による情報のゼロ化

多くの企業施設が“疲れる空間”になってしまう理由は、
壁が情報過多であることです。ガラス・アルミ・ビニールクロスは均質で反射率が高く、
視覚的ノイズを増やします。

一方で土壁や漆喰壁は、壁に掲示するのが難しいということもあり、空間の情報量を自然に“ミュート”します。

→ これにより、人は無意識に落ち着きを感じ、
コミュニケーションが柔らかくなるのです。


② 匂いを“ゼロ化”する

接着剤などから発生する化学物質の匂いは、人のストレスを大きく高めます。

自然素材は化学的匂いを持たず、しかも空気を浄化する力があります。

→ 店舗では商品香の邪魔をしない
→ 研修施設では集中力が高まる
→ オフィスでは疲労感が下がる

素材が“無臭の空気”をつくることは、心理的安全性の根幹につながります。


③ 光の柔らかさを設計する

自然素材の壁は、光があたると美しい「陰影」を生み出します。

陰影のある空間では、
人は“自分が安心できる距離感”を自然に選べるため、
長時間いても疲れません。

一方、均質な蛍光灯空間は、
集中力を奪い、ストレスを増幅させます。


④ 温度の「境界」を消す

自然素材は内部結露を起こしにくく、
室内温度差が小さいため、
空間の“ヒートショック的ストレス”が減ります。

特に研修施設・保養所・会議施設では、
温度ストレスの低減は成果につながります。


⑤ “滞在する場所”だけ自然素材にする方法

全面を自然素材にする必要はありません。
企業施設では予算調整が常に重要ですが、

・人がとどまる場所
・光が当たる場所
・あえて見せたい中心的な場所

この3箇所だけ自然素材にすることで、空間の印象は劇的に変わります。


4|企業ブランドを“素材で伝える”という設計

ブランドはロゴではなく、
建物の雰囲気から伝わります。

自然素材はその雰囲気を作り出す要素なります。

・「信頼性を感じる」

→ 素材の経年変化が企業の継続性を象徴する

・「誠実さがある」

→ 偽りがない本物素材で空間が構築されている

・「落ち着き・覚悟がある」

→ 柔らかな光と静けさが企業の姿勢を表す

・「丁寧な企業だ」

→ 丁寧な空間は“丁寧な仕事”の象徴になる

つまり自然素材の空間は、
企業が言語化しづらい価値そのものを代弁する
建築的ブランディングツール と言えます。


5|“居場所化”は採用力にも影響する

近年、多くの企業が福利厚生施設・研修所・ギャラリーを
再整備している理由のひとつに、

他社との競争力の強化 があります。

株主や顧客層たちは、企業施設を見た瞬間に
「この会社は信頼できるか」を判断します。

自然素材の空間は、その判断を直感的にポジティブへと導きます。

  • 透明性
  • 誠実さ
  • 仕事への姿勢
  • 長期的な文化

これらは言葉で説明するより、
空間の方が圧倒的に伝わるのです。


6|まとめ──企業施設は“ただの建物”ではない

企業施設は、単なる広報ツールでも、福利厚生でも、インテリアでもありません。

それは、「企業の価値観を表現する場所」であり、
その雰囲気を決めているのは “素材” です。

自然素材──とくに「土」と「漆喰」は、
光・音・温度・湿度・匂いといった、
すべての“身体感覚”に働きかけ、そこで働く人・訪れる人に
安心して滞在できる場所” を提供します。

それこそが企業施設の本質的な価値であり、
最も長期的な投資効果になっていきます。

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