素材建築において「同じ材料」は二度と存在しない

素材建築に携わっていると、
「同じ材料を使ってください」という要望を受けることがあります。
過去の事例を見て気に入った素材を、そのまま再現したいという気持ちは自然なものです。

しかし、素材建築においては、「同じ材料」という考え方そのものが成立しません。
それは、自然素材の性質によるものでもあり、
建築という行為そのものの特性によるものでもあります。

素材建築では、同じ材料は二度と存在しない。
この前提を理解することが、自然素材と正しく向き合う第一歩になります。

1| 自然素材には、必ず「癖」があります

自然素材には、必ず癖があります。
木には反りや節があり、土には粒度や粘性のばらつきがあり、
石には割れや色ムラがあります。これらは欠点として扱われがちですが、
素材建築では、その癖こそが素材の個性になります。

設計者の役割は、自然素材の良いところを最大限に生かし、
同時に悪いところを抑えることです。

すべてを均一に整えようとすると、自然素材は途端に不安定になります。
逆に、癖を無視して使えば、思わぬ不具合を引き起こすこともあります。

素材建築とは、素材の癖を排除する建築ではありません。
癖と折り合いをつけながら、建築として成立させる行為なのです。


2| 自然素材は「秀でた性能」を競うものではありません

自然素材は、断熱性能、耐久性能、遮音性能などにおいて、
工業製品よりも必ず劣る部分があります。

たとえば、断熱性能で見れば、高性能断熱材と比べて、
自然素材が数値で勝つことはほとんどありません。

しかし素材建築では、自然素材を「高性能な素材」として扱っていません。

自然素材は、なじんでいる素材として捉えます。

自然素材の多くは、建材になる以前から、
人間が暮らす環境と同じ風土の中に存在してきました。
土、木、石は、人の生活のすぐそばにあり、
長い時間をかけて共存してきた素材です。

そのため、数値としては突出していなくても、
人の感覚に対して抵抗感なく受け入れられます。

空間に取り込んだとき、違和感がなく、自然に存在しているように感じられる。

この「なじみやすさ」こそが、自然素材の最大の価値だと考えています。

その意味で、自然素材を建築に使うことは、
理屈以上に「正しい」と感じられる行為なのです。


3|建築そのものが「一品生産」です

「同じ材料」が存在しない理由は、素材の問題だけではありません。

建築そのものが、一品生産だからです。同じ敷地は二つと存在しません。

地形、方位、周辺環境、すべてが異なります。

同じ設計図を使ったとしても、建つ場所が変われば、
建築はまったく別のものになります。

建築は、工業製品のように同じものを大量生産する行為ではありません。

自動車のように、型番で管理される世界とは異なり、
建築は常にその場所、その条件、その時間の中で生まれる一点ものです。

だからこそ、素材選びもデザインも、一期一会の緊張感をもって行う必要があります。

部分も全体も、一つとして同じものはありません。
それが建築の本質です。


4| 既製品は「同じもの」だが、永続しません

一方で、既製品は「同じもの」として供給されます。
性能が安定し、施工もしやすく、計画が立てやすいという利点があります。

しかし既製品には、もう一つの側面があります。

それは、時間とともに消えていく存在であるという点です。

給湯器や設備機器は、10年、15年と経つうちに、
部品の供給が止まり、結果として全取り替えになることが珍しくありません。

住宅メーカの住宅は、機器類と同じに買い替えが必要な場合があります。


5| 自然素材は「同じものはない」が、代替がききます

自然素材は、確かに「同じもの」は存在しません。
木目も、色も、質感も、完全に同一のものは二度と手に入りません。

しかし不思議なことに、自然素材には同じようなものが存在します。

同じ山、同じ土壌、同じ風土で育った素材は、
時間が経っても、近い性質を持ち続けます。

そのため、補修や修理の際にも、代替品を見つけることが意外と容易です。

多少の違いはあっても、空間全体として見たとき、自然に馴染んでくれます。

この点において、
自然素材はデメリットよりもメリットの方が多いと感じています。


6|「同じでない」ことを前提に設計する

素材建築では、最初から「同じものは存在しない」という前提で設計を行います。

だからこそ、細部に過度な正解を求めません。完璧な再現を目指しません。

代わりに、その場で最善の判断を積み重ねていきます。

自然素材の癖を読み、建築の条件を受け止め、
空間として最もふさわしい形を探る。

その積み重ねが、素材建築を支えています。


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まとめ| 素材建築とは、違いを受け入れる建築です

素材建築において、「同じ材料」は二度と存在しません。

しかしそれは、不安定さを意味するものではありません。

むしろ、違いを前提にした、しなやかな建築だと考えています。

時間が経ち、使われ、補修され、少しずつ表情を変えながら、
建築は育っていきます。

素材建築とは、同じであることを求めない建築です。
その代わりに、その場所、その時間、その人に
きちんと馴染む建築を目指します。

だからこそ、私たちは今日も、「同じ材料は存在しない」ことを前提に、
素材と向き合い続けています。


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