「「素材建築」」という言葉を聞くと、
木なのか、土なのか、石なのか。
自然素材か、人工素材か。
そうした“素材の種類”の話を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、「素材建築」とは単なる材料選びではありません。
それは、建築をどのような生産構造の上に成立させるのかという設計思想です。
・工業製品を組み立てるのか
・現場で素材と向き合いながら仕上げるのか
・環境負荷や産業構造まで含めて考えるのか
「素材建築」とは、これらを引き受ける姿勢そのものです。
本稿では、「自然素材を使うこと」と「「素材建築」であること」の違い、そしてカタログ建築との決定的な差について整理します。
1| 「素材建築」は「自然素材の使用」ではない
まず明確にしておきたいのは、
自然素材を使えば「素材建築」になるわけではないということです。
無垢材を貼っても、漆喰を塗っても、
その背後の設計思想が工業製品の組み立てと同じであれば、
それは単に“自然素材を使ったカタログ建築”に過ぎません。
「素材建築」とは、
- 素材の癖を読み取ること
- 現場の条件に応じて調整すること
- 人の手で仕上げる工程を前提にすること
つまり、素材の個性を受け入れる生産体制そのものを選ぶことです。
ここが、性能数値や品番で構成される建築との大きな違いです。
2| 建設産業の構造と「素材建築」の関係
現在の建築の多くは、
工場で均一に生産された部材を現場で組み立てる仕組みで成り立っています。
- 性能は数値で保証される
- 品質は均一化される
- 工期は短縮される
この仕組みは、効率性・安定性という面で大きな成果を上げてきました。
一方、「素材建築」は異なる時間軸を持ちます。
- 現場で仕上げる
- 職人が微調整する
- 素材の個体差を前提とする
これは効率の論理では説明しにくい世界です。
しかしその代わりに、空間に深い質感と時間耐性をもたらします。
「素材建築」とは、どの生産システムを選び取るのかという経営判断でもあるのです。
2| CO₂問題と森林・林業の現実
自然素材が再評価される背景には、CO₂排出量の問題があります。
木材は炭素を固定する素材であり、
コンクリートや鉄に比べて環境負荷が低いとされています。
しかし、ここで思考を止めてはいけません。
木を使うということは、
- 森林がどのように管理されているのか
- 林業が持続可能かどうか
- 地域産業が成立しているのか
といった現実と向き合うことを意味します。
自然素材は「環境に優しいイメージ」で消費されるものではありません。
生産背景まで含めて引き受ける覚悟が必要です。
「素材建築」は、環境問題を単なるデザイン要素として扱いません。
産業構造そのものに目を向ける設計姿勢です。

3| 失われつつある左官材料という現実
自然素材の中でも、特に厳しい状況にあるのが左官材料です。
土壁は現在、新築で使われることがほとんどありません。
需要は伝統建築の修復に限られています。
その結果、
- 職人が減少する
- 材料の流通が細る
- 技術が継承されにくくなる
という循環が起きています。
これは、かやぶき屋根と同じ構造です。
技術は残っていても、需要がなければ消えていきます。
「素材建築」を語るということは、
失われつつある技術をどう現代に位置づけ直すかという問いでもあります。
4| 焼杉に見る「現代化された自然素材」
一方で、自然素材が現代的に再編集されている例もあります。
焼杉(やきすぎ)
焼杉は伝統的な技法ですが、
現在は工場生産によって安定した品質が確保されています。
- 高い耐久性
- メンテナンス性の向上
- 防腐・防虫性能
を持ちながら、
独特の素朴な表情を保っています。
ここに「素材建築」のヒントがあります。
「素材建築」とは、すべてを昔に戻すことではありません。
現代技術と融合させながら素材の力を引き出すことです。

5| 本質は「現場で仕上げる」という思想
「素材建築」の核心は、
現場で仕上げるという姿勢にあります。
特に左官工事では顕著です。
- 現場で塗る
- 天候や湿度を読む
- 職人の身体感覚で調整する
これは不安定で、効率もよいとは言えません。
しかし、その結果生まれる空間は、
- 湿度が自然に調整され
- 音が柔らかく反響し
- 空気がやわらぐ
といった、数値では語れない快適性を持ちます。
カタログの性能表には書かれていない価値です。
6| カタログ建築との決定的な違い
カタログ建築は、
- 性能
- 価格
- 仕様
を明確に説明できます。
これは大きな強みです。
しかし、説明できない価値も存在します。
- なぜ落ち着くのか
- なぜ長く居られるのか
- なぜ記憶に残るのか
「素材建築」は、
この“説明しにくい価値”を設計の中心に置きます。
不安定さ、個体差、非効率。
それらを排除するのではなく、受け入れる。
そこに、時間に耐える建築の深みが生まれます。
まとめ| 「素材建築」とは何か
「素材建築」とは、自然素材を使うことではありません。
素材の名前を並べることでもありません。
それは、
- 生産のあり方まで含めて建築を考えること
- 環境と産業の現実を引き受けること
- 現場で仕上げる価値を信じること
- 数値化できない快適さを重視すること
これらを一つの思想として設計に反映させることです。
「素材建築」は、簡単な答えを出しません。
むしろ問いを抱え続けます。
だからこそ、カタログでは語れません。
「素材建築」とは何か。
その問いに向き合い続ける姿勢そのものが、
「素材建築」という設計思想なのです。

